June 28, 2005
前に「日本の国富構成と米国比較」として、2000年における一国の資本ストック構成を紹介しました。ここではIT(情報技術)関連資産について、ストックとサービスという二つの視点から、そのインパクトを示したいと思います。
IT関連資産の定義はいろいろとありますが、ここではコンピュータソフトウェア、コンピュータハードウェア、および通信機器として定義します。無形固定資産としてのコンピュータソフトウェア(93.受注ソフトウェア、94.パッケージソフトウェア、95.自社開発ソフトウェア)の規模では、2000年末で27.8兆円ですので、わずかに全資産の0.8%、固定資産の1.5%のシェアに過ぎません。それにIT関連有形資産として、コンピュータハードウェア(37.電子計算機・同付属装置)と各種通信機器(38.有線電気通信機器、39.無線電気通信機器、40.その他の電気通信機器)を加算しても61.1兆円、全資産の1.8%、固定資産の3.3%を占めるのみとなります。資本ストックの尺度でみると、IT資産の規模はまだまだ小さなものです。
わずか1.8%のIT資産ですが、資本サービス投入量の成長でみると大きなインパクトを持っています。右図は一国集計レベルでの資本サービス投入量の成長のうち、IT関連資産の寄与率を示したものです。ここでは同様な概念で測定された、Jorgenson-Ho-Stiroh [2005]による米国での推計値と比較しています。1) 1990年代初めには、米国ではすでに資本サービス成長の40%ほどがIT関連資産によっているものの、日本では10%程度に過ぎません。1995年以降、IT資本サービス投入は日本でも急速に拡大し、2000年では集計資本サービス投入量の成長率の40%以上を説明しています。IT資本サービスの投入は、生産過程を描写するためにたいへんに重要な生産要素となっています。
ストックとサービス、IT関連資産のインパクトの評価としては二つの概念での測定に大きな乖離が生じます。資本投入量の代理変数として、集計資本ストックが使用される経済分析を現在でも多く見ますが、IT関連資産のような資本財の拡大によっては、ストック概念の使用の限界を与えているということもできるでしょう。ストック概念とサービス概念の乖離については、国民経済計算体系の改訂の方向とともに次回に紹介します。
野村浩二(慶應義塾大学産業研究所)