経済統計Tips−連鎖方式移行の前倒しへ−

October 19, 2004

2004年10月19日に公開された内閣府経済社会総合研究所国民経済計算部「国民経済計算調査会議及び基準改定課題検討委員会における実質化手法の連鎖方式移行に関する提言について」から引用します。

「国民経済計算調査会議(議長:黒田昌裕慶應義塾常任理事、慶應義塾大学商学部教授)は、本日、国民経済計算における実質化方式を従来の固定基準年方式から、連鎖方式に切り替えること、かつ当初予定された平成17年末の基準改定をまたずにこの切り換えを実施することを提言した。これが実施されると、実質経済成長率は遡及改定されることになる。
 現在の実質GDP算出方式(基準年を5年毎に更新する固定基準年方式)では、基準年から離れるに従って実質経済成長率が過大に評価される(例えば、コンピュータ等の価格低下の著しい品目の影響が過大に評価される)傾向がある。このようなバイアスを取り除く方法として、国連は基準年をより頻繁に更新する連鎖方式を推奨している。米国は1996年、カナダは2001年、英国は2003年に連鎖方式に移行している。 」

日本の国民経済計算も、世界的な標準に向けて加速しています。前倒しは歓迎すべきニュースと思います。実質量を単純に足すことはできませんが、理論的にはより望ましい測定です。2003年のころにOECDの研究者が日本は連鎖指数を採用していないからなあ、と何か日本の経済計算の後進性を示すように発言していたことを記憶しています(そのときは、現行でも参考系列としては計算されていると言いましたが・・)。なお、経済学の研究者による分析では、フィッシャー連鎖指数やタイル・トゥルンクビィスト指数1)などを使うことが多く(KEOデータベースもそうです)、はるか以前から実質量における加法性は持っていません。

国民経済計算における現行のデフレーターは、名目金額に対して、個々の商品レベルで実質化した後の和集計による実質金額で除して定義するインプリシット・デフレーター(implicit deflator)となっています。そのことから、GDPでみますと、実質GDPはラスパイレス数量指数、GDPデフレーターはパーシェ価格指数によって定義されていることと同義です。

価格変化率でみると、パーシェ指数(Paasche)<連鎖指数(Chained)<ラスパイレス(Laspeyres)指数という関係が標準的です。2) 名目値は所与ですので、数量でみると逆にパーシェ価格指数のときがもっとも数量側の変化率が高くでます。そういう意味で、上記のESRIからの引用文のように現行では「実質経済成長率が過大に評価される」のです。

1) 離散近似したディビジア指数のひとつですが、簡易的には単にディビジア(Divisia)と呼んだりしています。(しかしこの手の用語のワープロでのカタカナ変換はきつい・・)

2) 価格の変動と数量の変動が負の相関を持つときには、Laspeyres>Paascheとなるボルトキヴィッチの命題(Bortkiewicz[1923])があります。もちろん正の相関を持つような場合は、逆になります。

野村浩二(慶應義塾大学産業研究所)



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