経済統計Tips−日本の産業連関表の歴史−
November 2, 2004
Revised: January 19, 2006
覚えているようでついつい忘れてしまう、日本の産業連関表の歴史について整理しておきます。まずはその1として基本表と接続表の歴史です。ここでは「産業連関表(総合解説編)」(総務省)を参照しながら、自分の経験からのコメントを併記しておきます(ときどき追加します)。なお、基本的にはここでは西暦とします。
- 1951年表(昭和26年表)
日本の最初の産業連関表は、経済企画庁(現、内閣府)と通商産業省(現、経済産業省)がそれぞれ独自に作成し、1955年(昭和30年)に試算表として公表したもの。経企庁は9部門表、通産省は182部門表。行政管理庁(現、総務省)の統計審議会では、整合性のとれた産業連関表を関係省庁において統一的に作成することが望ましいとの答申(1955年6月30日)。
- 1955年表(昭和30年表)
1957年度において、行政管理庁、経済企画庁、農林省(現、農林水産省)、通商産業省および建設省(現、国土交通省)の5省庁と、集計・製表を担当する総理府統計局(現、総務省統計局)を加えた6省庁からなる作業部会が組織され、1958年4月より1959年に本格的な1955年表の共同作業がおこなわれる。1960年6月には一次表、1961年6月には最終表がそれぞれ公表。おもしろいことに、この段階ではまだ継続して作表していくことは考えていなかったとのこと(現在のような5年ごとの共同作業体制は1960年表より)。この表も慶大産業研究所にもありますが、読み解くには相当な覚悟が要ります。なお、現在のSNA産業連関表には1955年表も推計されていましたので、使うとすればそれになってしまうでしょう。
- 1960年表(昭和35年表)
1962-63年度において作表。総理府統計局によっていた集計・製表は通産省が受け持ち、新たに運輸省(現、国土交通省)および労働省(現、厚生労働省)が参加して7省庁体制によっておこなわれる。国民経済計算とより一層整合性の確保された産業連関表のフレームが作成され、部門分類や概念・定義などのあり方についても長期の時系列表や国際比較の面から基本的な改善が加えられた。日本経済の分析においては、だいたいこの1960年表を開始年次とすることが多いでしょう。とは言っても、この表を直接に見ることはたいへんです。現在では、その後に推計されることになる1960-65-70年(あるいは1960-65年)接続産業連関表から1960年の姿をみることになります。ただし1960年表では、公務は政府サービス生産者としてみなされておらず、中間投入せずに直接に政府消費支出として計上されていますので、調整が必要です。
- 1965年表(昭和40年表)
基本分類による行467部門×列339部門の取引基本表が1969年7月に公表。その後、1965年表の概念へと1960年表を合わせるようなかたちで、1969年8月から1970年3月までの7省庁の共同作業によって1960-65年接続産業連関表が作成され、1970年3月に公表される。これが日本のはじめての接続表となる。
- 1970年表(昭和45年表)
1970年表では、国連による国際標準産業分類の改訂(1968年、ISIC Rev.2)や68SNA勧告のため、これに部分的に対応するための部門分類などの取り扱いで改善がおこなわれる。1970年表からは付帯表として固定資本マトリックス、雇用マトリックス、屑・副産物の発生及び投入表などの作表開始。なお、屑・副産物表は明示的に付帯表となっていないが、1965年取引基本表の中でも扱われている。 1970年表までは総固定資本形成は民間・公的の順序であることに注意。1974年4月から1975年5月まで、7省庁によって1960-65-70年接続産業連関表が作表され、1975年3月に公表。
- 1975年表(昭和50年表)
68SNAに基づいて、産業、政府サービス生産者、対家計民間非営利サービス生産者の3つに分割され、従来は生産活動として扱わなかった部分を含めて内生部門に格付けしている。作表体制はこれまでの7省庁に大蔵省(現、財務省)、文部省(現、文部科学省)、厚生省(現、厚生労働省)、郵政省(現、総務省)が加わり、11省庁体制となる。68SNA概念に基づいて作成された1975年表にあわせるかたちで、1965-70-75年接続産業連関表が推計され、1980年3月に公表される。
- 1980年表(昭和55年表)
1980年表は、1975年表に対して生産額の増減などに伴う部門の分割・統合、68SNAに対応した政府サービス生産者の「非公務」の概念整理がおこなわれているが、大きな概念的変更はない。通産省がおこなっていた集計・製表の作業は、行政管理庁(現、総務省)がおこなうようになり、現在の体制となる。 1970-75-80年接続産業連関表が1985年3月に公表。
- 1985年表(昭和60年表)
日本標準産業分類が1984年1月に全面改訂(1985年4月施行)されることにともなって、製造業部門を中心に大幅な部門分類・コードの改訂をおこなっている。そのコードにしたがって1975-80-85年接続産業連関表が作成され1990年4月に公表。なお、接続表では自家部門は、それぞれの列部門に配分されている。この自家部門の扱いと、卸・小売マージンおよび運賃の情報を識別でいないことが、統計利用者にとっては接続表から基本表に戻らなければいけないポイントでもある。
- 1990年表(平成2年表)
1985年表を基本としつつ、特にサービス部門の分割、部門の新設などをおこない、サービス業に関する推計基礎資料の充実を図っている。物品賃貸業では、従来の原則としての「使用者主義」から所湯者主義へ改めている。無形固定資産として、プラントエンジニアリングを分離特掲。 消費税は、付加価値部門において間接税ではなく、営業余剰に含まれていることに注意。1995年2月に1980-85-90年接続産業連関表が公表。
- 1995年表(平成7年表)
93SNA勧告への対応と、日本標準産業分類の1993年10月の改訂に対応した部門分類の設定とともに、1990年表に引き続きサービス部門の拡充と推計基礎資料の充実を図る。鉱物探査と受注ソフトウェアが無形固定資産の固定資本形成として追加される。消費概念においては、93SNAに対応して、最終消費支出(誰が支払ったか)と現実最終消費(誰が便益を享受したか)に二元化する。1995年表では、「政府あるいは医療保険負担分の医療費」と「教科用図書の現物給付」が、それまでの家計消費支出から政府個別的消費支出に移動。 消費税の納税額は間接税に計上するように変更。2000年5月には1985-90-95年接続産業連関表を公表(接続表では消費税は「間接税」に計上するように統一、消費概念の二元化対応も遡及)。
93SNAへの対応として、一回だけ産出物を生産する動植物の成長増加分、および複数回産出物を生産する動植物で自己勘定以外(専門的業者)が所有する場合の育成成長分については、半製品・仕掛品在庫の増加として計上することと変更している。
0116021種苗、0116031花き・花木類、0121051肉用牛、0211011育林、0311041海面養殖業、0121099その他の畜産(そこに含まれる専門的業者による軽種馬)において、仕掛品在庫分を計上。ただし、0211011育林については、1990-1995-2000年接続表において1995年基本表の計数よりも2000億ほど上方修正。
- 2000年表(平成12年表)
「介護」や「再生資源回収・加工処理」部門の新設などとともに、93SNAへの対応としてソフトウェアプロダクトの固定資本形成への計上(自社開発ソフトウェアは見送り)、道路・ダムなどの社会資本に係る資本減耗引当の計上がおこなわれている。
野村浩二(慶應義塾大学産業研究所)
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