January 10, 2005
アメリカ商務省経済分析局(Bureau of Economic Analysis:BEA)は、米国におけるNIPA(National Income and Product Accounts:国民所得生産勘定)という国民経済計算の推計を主な業務としています。NIPAの公表のみならず、その精度向上のための諸研究として、統計作成者の個人的論文やプレゼン資料なども目にすることが多くあります。諸外国との比較では、顔が見える統計官や研究者が多いといえるかもしれません。ここではその組織図から他の統計部局との相違を紹介したいと思います。
まずはBEAの組織図を見てください。1)組織のトップにはDirector(およびその下にDupty Director)、そしてChief StatisticianとChief Economistがいます。さて、他の統計部局との大きな違いはその下部の組織構造です。組織図では6つがぶら下がっていますが、いずれもDivision(・・課)などの単位ではなく、統括するAssociate Directorという個人の役職名が書かれています。右の2つは組織のマネージメントやサポートに関するものですが、左の4つはBEAの推計する統計です。4人のAssociate Directorはそれぞれ国民経済勘定、国際経済、地域経済、産業勘定の担当であり、それぞれの下にようやくDivisionが出現します(なお左4人のAssociate Directorの経歴は写真付きで紹介されていますが、上の4人も含め8人全員がPh.Dを持っています)。日本や欧米諸国の国民経済計算の統計部署で、Associate DirectorがDivisionを統括している組織図を持つのは米国BEAだけではないでしょうか?オーストラリア(ABS)やカナダ、また同じ米国内でもBLSは組織がぶら下がる構造です。
国民経済計算の測定として、それぞれのDivisionは独立して存在することはできません。測定上の問題意識は共有化されなければいけませんし、また相互の整合性をもって推計をおこなわなければなりません。これはセンサスなどのような、より直接的な経済調査をおこなう統計部局との大きな相違と思われます。 責任を明確にしながら、分業とともに統計の整合性を保持し、新しい測定の概念や分析手法などを取り入れて機動的に動くために、BEAの組織構造は効率的であるようにみえます。そして、統括者でありながらも、研究者でもあるAssociate Director個々人のインセンティブとも整合的なのでしょう。日本の国民経済計算においても、より機動的な体制を構築するためには、BEAの組織図から学ぶことも少なくはないように思いますが・・、さて如何でしょうか?
野村浩二(慶應義塾大学産業研究所)