May 11, 2005
Organizing to Count−、それはJanet L. Norwood『Organizing to Count - Change in the Federal Statistical System』(Washington, D.C., The Urban Institute Press, 1995)という本のタイトルです。日本語で題名を与えるならば『統計行政の再編成』や『統計行政の再構成』とでも言うのでしょうか。タイトルひとつで魅力がそうとう薄れてしまいます。
2004年11月に、経済財政諮問会議のもとに経済社会統計整備推進委員会が設置されました。吉川洋先生(東京大学)を委員長として、現在の農林水産統計などに偏って配分されている人員や予算配分、既存統計の抜本的見直しなどが活発に検討され始めています。第3回委員会(2005年1月26日)の配布資料4によれば、2002年において経済活動別の統計調査額では、農林水産業に44.5億円が配分されています。農林水産業は一国GDPの1.3%(就業者数の6.0%)を占めますが、統計調査(産業を対象とした調査)としては26.7%の予算が配分されていることになります。1) もし、事業所統計や毎月勤労統計などの複数業種を対象とする調査を除くと、全体の41.0が農林水産業に対する調査へと割り当てられているという、アンバランスを示しています。このような資源配分上の硬直性は、日本の統計行政が各省庁にまたがっている分散型であることのひとつの欠点と言えます。
世界で多元化している統計行政の代表例は米国です。米国の統計行政は、分散型の成功例として捉えられています。ただし、国民経済計算を作成するBureau of Economic Analysis(BEA:経済分析局)と、一次統計調査をおこなうBureau of Census(センサス局)はともにDepartment of Commerce(商務省)に属しています。もし米国での両者の関係を、日本における経済社会総合研究所(ESRI)と総務省統計局との比較で捉えれば、米国のほうが相対的にはより近い関係にあるということもできます。そういう意味で、二つの商務省の部局とBureau of Labor Statistics(労働省労働統計局)との二元化であると捉えることもあるようです2)。下の表は、連邦政府の統計調査予算をNorwood女氏による前掲書から引用したものです。予算配分からみれば、商務省(センサス局とBEA)と労働省(BLS)の二元化というよりは、その他1/3がその他の省庁に配分されているというかたちになっています。
FY 1995 Congressional Appropriations for Statistical Agencies (in millions of dollars) | |
統計調査機関 | 予算 |
Bureau of Labor Statistics | 352.9 |
Bureau of Census | 278.1 |
National Center for Educational Statistics | 90.8 |
Energy Information Administration | 84.7 |
National Center for Health Statistics | 81.5 |
National Agricultural Statistics Service | 81.4 |
Economic Research Service | 53.9 |
Bureau of Economic Analysis | 42.2 |
Statistics of Income Division. IRS | 25.1 |
Bureau of Justice Statistics | 24.1 | Bureau of Transportation Statistics | 15.0 |
Total (11 Agancies) | 1171.7 |
Janet L. Norwood, Organizing to Count - Change in the Federal Statistical System, Washington, D.C., The Urban Institute Press, 1995, Table 3.1 |
Norwood女氏による前掲書でも、米国は分散型で成功してきたけれども、米国でもCentral Statistical Boardのようなものを設置して、centralizationへの動きが必要であるとの提案をしています。日本でも、一元化への方向へと進むべきであるとの提言が多く見られるようになってきました。経済社会統計整備推進委員会の第4回委員会においても、西村清彦先生(東京大学)が、「現行の公務員人事システムが、統計調査とその分析の専門性を全く考慮に入れていない」こと、「統計局基準部・統計審議会は省庁そして実査をになう都道府県の単なる利害調整の場になってしまっている」ことなどの重要な指摘をしています。そして具体的な改善策として、中央統計委員会(National Statistical Commission)を内閣府に置き、経済財政諮問会議に直属とし、人口センサス(国勢調査)、(現在日本でも検討されている)経済センサス、そして国民経済計算を作成し、その他は現行の分散型システムを踏襲するという提案をしています。それは米国での商務省での統計調査機能(BEA+センサス局)に類似していますので、米国の現行のシステムをもう少し集中化させたものと言えるかもしれませんが、もし実現されればたいへん大きな改善をもたらすことになるでしょう。
統計行政を再編成することは、コスト面の効率化のみを目的とするものではありません。ダイナミックに変動する経済を的確に捕捉するためには、一次統計へのフィードバックが欠かせません。世界でさまざまな検討が進行している新しい測定の概念に迅速に対応するには、高い専門性が欠かせません。 現在の日本の統計行政にみられる過度の分散型と公務員人事制度では、その弊害が大きく現れ始めています。西村先生は中央統計委員会に統計監(Chief Statistician)を置くことを提案しています。BEAにもChief StatisticianとChief Economistがいます。3) その下には、各種の統計を管轄する複数のAssociate Directorがいます。日本でも、人事制度の改訂によって、顔の見える統計専門家がAssociate Directorなどとなって責任を明確化することが重要なのでしょう。
野村浩二(慶應義塾大学産業研究所)